日経VI先物取引に最適なポジティブガンマのヘッジ手段

投稿者名:金森 雅人

日経VI先物をショートすると、ベガ-10となるベガショートポジションとなります。
このポジションのヘッジにはインプライドボラティリティが高騰するときに利益になる組み合わせが適しています。

その一つとしては、インプライドボラティリティが高騰するタイミングは相場が急変した時になるので、ガンマロングポジションを当てておくという考えがあります。
ガンマロングポジションにするとたいていがベガロングのポジションとなるので、ベガの数値をヘッジしつつ、ガンマで利益を取りにいける可能性があります。
この場合はベガをフルヘッジしてガンマで利益を狙いに行く作戦もあれば、インプライドボラティリティの高騰の際に多少でも日経VI先物の損失を減らすためにポジションサイズを小さくして保有しておく保険の役目としても活用できます。

ここでは日経VIショートの際のヘッジの手段の事例を解説します。

日経VI先物とは

日経VI先物は、日経VIの数字が1ポイント増加すると1万円の利益になります。
日経VI先物はオプションのインプライドボラティリティを指標化した数値の先物取引になりますので、インプライドボラティリティが1ポイント上昇すると、1万円の損益が発生する性質があります。

つまりオプションのギリシャ文字に換算すると、ボラティリティの上昇による損益の変動を表すベガの値が、10であるということを意味します。

ポジティブガンマのポジションとは

ポジティブガンマ(=ガンマロングとも呼ばれます)ポジションとは、相場の変動により利益が増えるポジションです。
オプションのガンマの効果でデルタが相場の変動に合わせて増減しますので、もし一方方向に相場が上昇(または下落)した際には大きな利益が取れる可能性があります。

この際に相場の方向性であるデルタをニュートラル、つまり0にしておくのがポジティブガンマ戦略のポイントであると言われます。
相場の方向性を当てに行く戦略であればデルタをニュートラルにする必要がありませんが、今回はどっちにいくかわからないがもしかすると一方向に行くかもしれないという懸念をヘッジするので、デルタニュートラルにします。

ポジティブガンマを組んでおくと、相場の変動が味方になります。
具体的な組成方法としては、1枚どれでも良いのでオプションを買って、そのオプションのデルタを見てデルタの分だけミニを売買する方法です。
例えばP13750が80円という値段がついていた場合、デルタは-0.1になります。
デルタが-0.1である場合は、日経225ミニを1枚買うとデルタニュートラルになります。
なぜなら日経225ミニはデルタ0.1だからです。

このようにオプションと日経225ミニを購入することでポジティブガンマのポジションが出来上がります。

コールとプットの選択

実際にポジションを発注するときには、コールとプットの選定に迷うかもしれません。
正解はないので投資家自身の判断に委ねることになります。

もし大暴落を予感しているなら、プットのほうが適しているといえます。理由はベガの値にあります。

今回の事例で考えられる想定としては
・とどまってIV低下→VIで利益
・原資産が暴落してIV上昇→プット側の方が自分に近づくのでベガが徐々に増えていくので有利
・原資産が上昇→ベガが少なくなりIVも低下するので、影響が軽微になっていく方向

ベガはオプションのインプライドボラティリティの変動に対するオプションプレミアムの変動を示していますので、数字が大きいほどインプライドボラティリティの影響を受けます。

もし暴落した時にプットオプションを保有していると、原資産である日経225指数が下落してきますのでオプションはアットザマネーに近づきます。
アットザマネーに近づくと、ベガの値が大きくなります。
ということはインプライドボラティリティの変化に敏感に反応することになります。

原資産が16,000円の時のベガの値

もし日経平均株価が16,000円だった時にP13750@80を売買する際には、Prizeのプライサー機能を利用して算出するとベガの値は+5でした。

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原資産が15000円の時のベガの値

一方原資産が15,000円になると、仮にオプションのインプライドボラティリティが一定だったとした場合にベガの値が増加して+6になることが分かります。

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このように原資産が下落するほどベガの値が増加していきます。
原資産の変動を利益の源泉とするガンマの他に、ベガの値までもが感応度が高くなっているのです。

このように権利行使価格が原資産価格から遠いポジションでも、大暴落があるとポジティブガンマとインプライドボラティリティの増加及びベガの増加により、相乗効果で利益が出る見込みがあります。

ヘッジ枚数の検討

本体の日経VIに対するポジティブガンマポジションは何枚が良いのでしょうか。

インプライドボラティリティの上昇とポジティブガンマの影響を正確に把握することは困難です。
よって最初にトライするときには傾向はつかむためにフルヘッジを期待するのではなく、日経VI先物の損失を多少緩和できるくらいの枚数バランスにしたほうが良いでしょう。

また、選択する権利行使価格もデルタ-0.1やデルタ-0.2のようなデルタが小さい遠い権利行使価格がよいかもしれません。

P13750を80円で購入した時のデルタは上記のように-0.1なので、このプットオプションに先物ミニ1枚を買うとデルタニュートラルのポジティブガンマポジションが出来上がります。

組成時のリスクカーブはこのようになっています。

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緑のラインが現在のリスクパラメータから描画したリスクカーブとなります。
おわん形になっていて、上昇しても下落しても利益になるポジションとなっています。

この結果より、このポジションが5万円の利益を出すには原資産価格が15,000円以下、または17,000円以上になっていると5万円近い利益が出ることになります。

そこで本体の日経VIを考慮し、例えば下落方向になると見込んだ時にには日経VI先物が5ポイント上昇した時に原資産価格はどの程度下落しているか、逆に言えば原資産価格が16,000円から15,000円に下落した際にはインプライドボラティリティがどの程度上昇するかということを予想して、その価格をヘッジするようにポジションを組成することがポイントとなります。

もし15,000円に下落した時に日経VI先物が5ポイント上昇するだろうと思えば、P13750のポジティブガンマポジションはフルへッジできることになります。
-1000円の下落の際にはもっとボラティリティが上昇すると思えば、このヘッジでは損失をカバーできないこととなります。

オプション1枚でこのようなヘッジの効果がありますので、もしこのヘッジが過剰であると判断すれば、権利行使価格をもっと引き下げることを検討しましょう。

ヘッジの実際の効果

日経VI先物は1週間以上前に29.5ポイントでショートしている状態でイギリスの国民投票を迎えました。
結果はEU離脱派が勝ち、-1000円を超す暴落となりましたが、結果が確定する直前の午前11時ころに一度原資産が下げたところでP13750のプットをオプションを80円で買い、日経225ミニを1枚買ってポジティブガンマのデルタヘッジポジションを当てました。

この時のボラティリティの変化とヘッジポジションの効果を見てみましょう。

日経VI先物

この暴落は史上8番目の暴落幅と報道されているように、非常に幅の広い下落となりました。

しかしながら、日経VI指数は40ポイントにいたものが48ポイントに上昇した程度で、原資産暴落によるボラティリティの上昇幅がそれほど多くありませんでした。

実はイギリス国民投票は誰もが注目するイベントで、結果も事前予想が片方によっていなかったため、すでに変動を予期してボラティリティが上昇していました。
実際に何も変動がない(=6/23時点では国民投票が実施されていないため実質はまだ何も起きていない)状態にもかかわらず40ポイントになっているというのが非常に相場状況を不安に感じる参加者が多かった表れとなっています。

よってEU離脱は「予期できなくても、予測はある程度織り込んでいた」と考えられます。
日経VI指数は意表を突かれると人間の心拍数のように急騰することが知られていますが、今回はすでにびっくりする事象に心の準備ができていたと考えられます。

その状態で下落が起きても、日経VI指数はさほど上昇しなかったのです。

更には日経VI先物は日経VI指数を原資産とする先物ですが、一旦びっくりして上昇してもボラティリティの性質上、上った心拍数が元に戻るようにゆっくりと下落していくことがわかっていしますので、日経VI先物は上昇しにくいのです。

この時の日経VIは国民投票前日の終値時点では28.2ポイントだったものが、32ポイント程度までしか上昇しませんでした。

日経VI先物を29.5ポイントで保有しいた場合には含み損が-3万円程度となっています。

ヘッジとしてのポジティブガンマポジション

ではヘッジとして追加したポジティブガンマポジションについて見てみましょう。

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思惑通り暴落が起きたものの、結果としては+6000円と微々たる上昇のみとなりました。

この価格は終値の時点ですが、期中で確認していた際には最大でも24,000円程度しか含み益が膨らんでいませんでした。

日経VI先物が-3万円にたいしてポジティブガンマポジションが+6000円とヘッジとしては非常に効果が少ない結果となりました。

ポジティブガンマが利益にならない理由

暴落したにも関わらずポジティブガンマが当初の想定のように利益にならなかったのは、上記のグラフの赤い実線(=実際の損益グラフ)が、黄色い線(=組成時のリスクパラメータより予想される損益線)に対してかなり下の方にずれていることにあります。

この理由はP13750のインプライドボラティリティが低下したことによります。

組んだ当初のP13750のインプライドボラティリティが60.89%だったものが、暴落したあとには52.93%と-7.96%下落しています。

本来なら暴落時にはインプライドボラティリティが上昇するはずなのですが、今回はすでに変動が織り込まれていた上に、午前11時ころの体制が分かる前の事前情報で相場が揺れ動いた時がすでにボラティリティのピークだったということが分かります。

インプライドボラティリティが高い状態でオプションを買ってボラティリティの急落に見舞われると、いくら相場の方向性があたっても利益は乗りません。

この時の日経VI指数は上昇しているので全体的にはボラティリティが上昇したように見えますが、個別のオプションを見た時にはこのように下落しているので、概ねアットザマネーのプットオプションのボラティリティだけが上昇し日経VI指数を押し上げて、今回のようなアウトオブザマネーのオプションのボラティリティが低下したために全体の数値がそれほど上昇しなかったものと考えられます。

ポジティブガンマポジションの最大損失

このポジティブガンマポジションは6/24は+6000円程度の含み益ですが、夕場から欧州やアメリカの市場が始まって混乱が明確化されたり、土日で変動があるかもしれないと考えてポジションを保有し続けたとします。

(実際には6/24のナイトセッションでは日経平均先物は+300円程度の上昇だったため日本の下落が過度だった可能性はありえます)

この時に月曜まで保有し続けたとするとこのようなリスクカーブとなります。

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含み損は6万円を超えました。
この時の日経VI先物は組んだ当初とほぼ変わらない30ポイント付近にいます。

つまりヘッジを入れた分だけが損失となっているためヘッジを入れなかった方がマシだったという結論になります。

しかしこれは結果論として変動するという思惑から週末に持ち続けたことによるヘッジコストとなります。

このリスクカーブを見れば明らかですが、デルタヘッジポジションはプットオプションの買いコストが最大損失ではありません。
P13750を80円で購入した場合に損失が80円で固定されるわけではなく、ミニを1枚買っている分の損失が乗るのです。

プットオプションを80円(約8万円)で買って損失限定のガンマロングポジションを組んだとしても最大損失は、リスクカーブ上ではSQ時の最大損失(=青い線)が-30万円であることがわかります。

結果の考察

この結果より考えられることは、プットオプションを組んだ時にはすでにボラティリティが極限にまで高くなっているので、高値を買っていることを理解していること。
そして高値で買っているということはイベントが終了した際にはすみやかにボラティリティが低下するので早めにヘッジポジションを解消しておくこと。

これらをあらかじめ認識したうえで短期ヘッジを組むのが良いでしょう。

また、本体の日経VI先物に対して、組んだ当初のベガが+5あります。これは日経VI先物の1/2の変動をヘッジしていることになります。
果たしてこれが日経VI先物のヘッジとして妥当だったのかを振り返る必要もあります。

ヘッジとして最大損失をカバーするだけで良いのなら、ベガの値はもっと小さくても良かったかもしれません。
オプションを使用するとベガの他にもデルタ、ガンマ、セータが関連してきます。

上記の図の黄色い線は組成時のポジションの時間経過後の姿を算出した仮想線になりますが、月曜日の時点ですでに組成時の緑の線よりも大幅に下がっています。

つまりインプライドボラティリティが大きいということはセータも大きく、1日保有しているだけでオプションの減価が始まってしまいます。

暴落前のオプションのセータが-10なので、1日保有すると1万円利益が減ることを意味します。

日経VI先物やデルタヘッジのために保有した日経225ミニは減価しませんが、買ったオプションは否応なく減価していきますので、オプションを取引する際にはこの時間経過による減価も考慮しなければいけません。

このように考えると、日経VI先物1枚に対してデルタヘッジを行うというのは、今回の事例に限ってみればヘッジ過剰だったといえます。
ましてやすでにインプライドボラティリティが高騰した状態では、日経VI先物のヘッジの効果を超えてオプションによるポジションの方が損益に与える影響は大きくなります。

まとめ

ポジティブガンマポジションは、わずかデルタ0.1になるように組成したとしてもオプション買いプレミアムが最大損失ではないため、リスクカーブを描いて損失を予測するのがお勧めです。

そのうえで日経VI先物に対して適正なヘッジボリュームとなっているか判断しましょう。

また、今回のように最小のヘッジサイズでも過多であると判断した時は、日経VI先物の枚数を増やすか、ヘッジポジションの形を変えて取りたいヘッジサイズになるか他のスプレッドトレードも検討しましょう。

戦略如何によらず、高ボラティリティ時のオプション買いはボラティリティの低下による減価、時間価値の減少による減価を引き受けなければいけないことに注意しましょう。

 

また、日経VI指数については日経平均VIを投資判断に役立てることが可能な理由とはで解説していますので併せてお読みください。

 

 

 

 

※当ブログは筆者の個人的な見解を示すものにすぎません。掲載しているデータの収集とその分析についても、筆者の個人的な視点に基づく分析であり、その有効性を保証するものではありません。解説においては、筆者の独自の視点で学習目的のために事例を簡略化している場合があるため、資料の中で紹介される事例は実際の相場とは異なる場合があります。取引事例についても、完全に再現しているものではなく、かつ、その有効性を担保するものではありません。また、本資料に含まれる記述や情報については十分精査しておりますが、その内容に関して筆者は一切責任を負いません。

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