
LEAPSとは残存日数が9か月以上ある期間の長いプットオプションを売る手法です。
iphoneなどで有名なApple社の株オプションを利用して株価の上下の変動に関係なく利回り8.8%の投資が実現できるのですが、さらり利回りを向上させることも可能です。
ここで解説する利回りとは必要資金に対する得られる利益(リターン)の度合いを表現しているので、利回りを高める手法はリターンを増やすか必要資金を減らすことです。
この2つの手法について解説しますので、あなたも今後LEAPS戦略での投資で、利回りを自分自身でコントロールできるようになります。
利回りとは
利回りとは、投資の効率性を評価するための指標です。ROI(Return On Investment)とも呼ばれ
利回り=得られる利益(リターン)÷必要資金
で表されます。
よって
- 得られる利益(リターン)を増やす
- 必要資金を少なくする
という2つの手段が考えられます。
そこでまず基礎となるオーソドックスなLEAPS戦略のリターンについて確認します。
アップル社のLEAPS戦略
Apple社なら株主になってもよいなと考えたとして、投資を検討します。Apple社の株は95ドル付近にいます。
現在の株価が95.22ドルになっています。4月26日に104ドルを付けていた株価が、4月27日に98ドルまで落ち込んでいます。そして5月13日には90ドルまで下がって、今は95.22ドルとなっています。
チャートの動きをみると、5月13日の90ドルを底に回復をしているように見えます。
2種類の投資行為
90ドルまでもう一回さげたら買っても良いくらい安い」と考えた時に投資家が取る行動としては次の二つが考えられます。
- 90ドルに指値をする。
- プットオプションの権利行使価格90ドルであるP90を売る。
90ドルに指値して待つというのは株式投資なのでわかりやすい概念ですが、90ドルまで下がってこなければ約定しません。そこでP90を売ると、そのプレミアムを受け取れますのでプットオプションを売った方が機会損失を防ぐことが出来ます。
このプレミアムゲインがLEAPSの主な利益の収入源となり、投資家がApple株を持ちたい時にプットオプションを売るというのがオーソドックスなLEAPS戦略です。
この時プレミアムゲインを受け取れる条件としては、満期までの期間内にプットオプションの買い手による権利行使があれば90ドルでApple社の株90株を買い受けなければならないということを引き受けているためです。
2017年6月満期のP90を売る
P90はおおよそ8.2ドル付近で売ることが出来る価格がついています。
アメリカの株式や株式オプションは100倍単位なので、実質820ドルのプレミアムを得られることがわかります。
仮に90ドルに指値して待っていた場合、必要資金は9,000ドル(90ドル×100枚)かかります。しかし買えるかどうかはわかりません。
P90を売った場合も、権利行使された場合に備えて9,000ドルを用意しておくと非常に安心であり、このような戦略を総称してcash secured put writingと呼んでいます。
その用意する9,000ドルのうち、820ドルはプレミアムとして市場から受け取っているので、実質は8,180ドルを用意しておけばよいことになりますので、8,180ドルの投下資金で820ドルを得た計算になります。
820÷8180×100=10.0%
10.0%は13ヶ月での利回りなので、年利に換算すると10.0/13×12=9.2%
このようにcash secured put writingとして必要資金を全額用意しておくと、9.2%の利回りであると計算できます。
ではこの利回りを向上させる手段を検討します。
1.リターンを増やす
ではここから9.2%の利回りを向上させる方法について検討してみます。
まずはリターンを増やすことから見てみましょう。
リターンを大きくするには、受け取り額を多くすることです。そのための投資家が出来ることは
- 投資期間を短くして短期で回転させる
- 権利行使価格を原資産価格に近付けてリスクを取る
この2種類が挙げられます。
投資期間を短くする
前述したプットオプションは、9ヶ月以上の残存日数がある長期オプションを利用しましたが、例えば3ヶ月の満期という比較的短期投資でも、充分にその効果を享受することが出来ます。
1年先の株価は予測できなくても、3ヶ月先なら予測可能かもしれません。
8月19日満期のプットオプションの権利行使価格90ドルのプレミアムを見てみると、2.6ドルついています。
プットオプションを売ると、2.64ドルの受け取りがあります。
これがプレミアムゲインとして、オプションを売ることで手にする利益の原資です。なお、まだこの時点では厳密には利益として確定しておらず「受け取り」があったという状態です。
これより分かることは、13か月満期のオプションが8.2ドルに対して、3か月満期のオプションを4回転させた場合には2.6×4=10.4ドルとなり、3か月満期のオプションを4回売った方が有利となります。
つまり短期売買を繰り返した方が、受け取れる最大額は多いことが分かります。
なぜ投資期間が短いほうが利回りが高いのか
この現象は、オプションに特有のタイムディケイの構造にあります。
タイムディケイとは、時間が経つにつれて減価していく特徴のことを指し、プレミアムゲインの原資となるオプションの特徴のことです。
満期に近づくにつれてタイムディケイ(=時間による減価)が大きくなっており、満期直前が最も減価が激しい特徴となっています。
この性質を長期にわたって利用するのが、9か月以上の満期を扱うLEAPS戦略になるのですが、では短期売買を繰り返した方が良いのでしょうか。
短期売買の課題
短期売買を行うと、最大受取額は大きくなります。
しかし、LEAPSを利用すると1年という長期で保有しているのに対し、3か月満期のオプションを使うと3か月ごとに銘柄を見直さなければいけません。
また、仮に株価が下がった時に、満期が年に4回あるということは、下落したタイミングで割り当てとなる可能性が4倍高まります。LEAPSでは1年に1回だけなので、もし仮に株価が下落したとしても、回復する余地はあるかも知れません。
しかし年に数回満期が来ると、その回数だけ割り当てになる可能性が高まります。
もしApple社のみ投資をしていた場合には、受け取りを多くして年に4回の取引をした方が良いかと思うかもしれません。
しかし分散投資として多数の銘柄に分散した時には、1銘柄における時間の拘束を最小限にしたいところです。
Apple株の他にも、魅力的な銘柄により注力するために、ある程度ほったらかしに出来たほうがポートフォリオの投資効率は高まります。
そのように考えると、相場の変動を吸収できるくらいに長期であるオプションを選択することが、長期投資を考えている運用としてはマッチしています。
期間の選定基準とは
この選定基準は、利回りの最大化ではなく、1銘柄に充てる時間効率とのバランスです。
時間効率を最大化して、利回りを出来るだけ多くするためには、少なくとも9か月以上の時間があると余裕があるということで9か月以上のオプションをLEAPSと呼んでいるのかもしれません。
今から1年後というのは非常に先のことなので、前述の1日当たりの原価を示すタイムディケイがほとんど機能していません。ですが投資してほったらかしにして、数か月先に気が付いたら利益が積みあがっている、という投資スタイルがこのLEPASを用いた戦略となります。
つまり手間を少なくメンテナンスを最小限排除するために、あえて長い期間のオプションを扱っているわけです。
投資家によっては、1年は長すぎるので、半年、3か月ごとに見直した方が良いと考える人もいるでしょう。もちろんそれも投資判断の一つです。実際のところ、満期が短いほうが受け取り額は多くなりますので、全部権利消滅したら得られるリターンは多くなります。
しかし、このような銘柄を20社や50社手がけていると、次第に1銘柄当たりに割り当てる検討時間が取れなくなってきます。
そのように時間が無くなっても投資できるという戦い方としてLEAPSが優れています。
下落時に満期を迎える可能性
また、下落して権利行使価格よりもずっと離れたとところでインザマネーになり現物株に変わった場合には、ファーアウトオブザマネーのコールを売ってカバードコールをしなくてはいけません。
一時的な下落も拾ってしまうので、もしかすると1年経てば株価が回復していたかもしれません。
その可能性を自ら排除して相場についていく戦い方となるので、全部上手くいけば短期売買の方がメリットが多いですが、結果として1年間待った時に比べて投資効率が落ちる可能性もあります。
その得られる想定利益と実際の利益のギャップが、短期売買の方が大きくなります。
これをリスク(将来の不確定要素の度合いの大きさ)と捉えるから、短期売買の方が受け取りが多くなります。
短期売買はプレミアムが小さい
タイムディケイの性質上、期間が短いオプションは価格が小さいです。
3か月先のオプションは2.6ドルであり、仮に4回転回せば1年先のオプションよりも受け取りが大きくなりますが、1枚は2.6ドルしかありません。
Apple株のP90であれば2.6ドルが付いているのですが、例えばP55ドルを売ろうとすると、わずか0.11ドルの受け取りしかありません。
仮に55ドルにまで下落することは無いだろうという相場観であっても、あまりに受け取りが小さいとリスクの割にはリターンが小さいことになり、この受け取りを多くするには権利行使価格を上げて少しリスクを取るか、満期までの期間をもっと長くするかの2択となります。
もし権利行使価格をずらすほど相場観にたけていないとしたならば、受け取りを増やすためには満期までの期間を長くせざるを得なくなります。
そうなると満期までの期間が長いオプションを扱うことになります。
結局は受け取りの絶対額を増やすためには、期間を長くしないと全く収益が見込めないという銘柄も出てきてしまうのです。
2.必要資金を少なくする
cash secured put writingは、全額自己資金を用意しておくと、仮にApple社の株価が1ドルになっても、保有し続けられます。
全額をキャッシュで用意しているので、株価が0になる破産になると、投資した金額を失って損失が確定します。
ところが、日本で米国株オプションを取引できるインタラクティブブローカーズ(IB)証券は、信用取引となっており、証拠金率50%で株やオプションを保有することが出来ます。
そこで、Apple社はどんなに下落しても50ドル以下にはならないと考えるならば、自己資金を5000ドル程度だけ用意して戦うこともできます。それを可能にしているのがIB証券の特徴でもあります。
つまり5000ドルの投下資金に対し930ドルのリターンとなります。
よって820÷5000=16.4%
以上が13ヶ月分の利回りなので、年利換算すると16.4÷13×12=15.1%となります。
必要資金を減らす際の注意点
50ドルまでは下がらないだろうという相場観を入れていますが、下がる可能性はありますしだれにもわかりません。
もし50ドルまで下げてしまったら、資金がショートする可能性が残っています。その点ではフルキャッシュ用意するcash secured put writingのほうが安全性が高まります。
この手法は米国株オプションの特徴ではなく、IB証券の制度が寄与しています。IB証券を利用するメリットとして覚えておくと良いでしょう。
利回りを検討する際の注意点
今回はプット売りの検討のみを行いました、権利行使を受けた後はカバードコールに移行する場合には、上記と同様の利回りが出るとはかぎりません。
それは、大きく下落した場合に場合にコールオプションのプレミアムがほとんどついていない可能性もあるためです。
その場合はいわゆる塩漬け状態で待たなければなりません。
また、もう1つは指値とオプション売りとの違いです。
指値して約定後に急騰した場合は上昇益を享受できますが、P90売りの場合、権利行使を受けずに上昇した場合、この上昇の直接の利益は享受できません(プレミアム分の利益にとどまります)。
売り枚数を増やしても利回りは不変
利回りを向上させる手段として、受け取りのプレミアムを増やす、つまり枚数を多く売るというアイディアも思いつくかもしれません。1枚売るより、2枚、3枚売ったほうが、受取額が増えます。
しかし利回りの定義は投下資金に対するリターンとなるため、枚数を増やすことは投下資金も増えることとなり、利回りは向上しません。
利回りとは資金効率の指標であり、単純に枚数を増やしたからと言って、リスクを低減させているものではないので投下資金に対するリターンの比率は変わらないのです。
リスクがあるからリターンがある
このプットオプション売りの戦い方ですが、Apple株の株価と関係なく利回りを計算しています。
実際にはApple株が上下しますので下落幅が大きくプットの権利行使価格より低くなりすぎた場合には、株の含み損として計上されます。
しかしApple株を優良銘柄と考えるなら、下落した時こそが買いエントリーのチャンスとなります。ですので買うタイミングを図るためにプットを売って下落するのを待つということが出来ます。
下落しなければプットの売りプレミアムを取得して利益になり、下落して権利行使された場合には株式として保有すればよいこととなります。
リスクが全く無いわけではなく、現株になった場合の含み損はリスクとしてあります。
そのリスクを引き受けて実現しているプレミアムゲインによる利回りが8.8%あるという計算が今回の事例です。
まとめ
利回りを向上させるためにはリターンを増やすか、必要資金を下げればよいことがわかりました。IB証券では信用取引として資金を効率良く使えるので、利回りを向上させることができます。
この利回りを高めるプロセスは、単純に投下資金を減らして効率化を図っているだけなので、リスクの観点からリスクが高まっていると解釈します。リスクを引き受けてリターンに変えているということです。
Apple株が50ドル以下になることが現実的かどうかを投資家自身が判断し、怖いと思えばフルキャッシュで全額用意しリターンを狙いに行き、効率化を図りたい場合は資金量を減らして(最大半分まで)高い利回りを狙うことが可能です。