
当協会のブログ記事やメルマガでの質問に対してメールで回答をしていますが、今回はとてもいい質問を読者さんからいただきました。
オプションでは、唯一存在するエッジが、インプライドボラティリティによるリスクです。
このインプライドボラティリティのリスクを取って利益に変えられるのがオプションの本質です。
皆さんからいただく質問には今回のように回答をしておりますので、その一例として返信内容について紹介します。
下記吹き出しがメルマガ読者さんの質問です。
いろいろな金融商品を調べる中で、JPXのYouTubeチャンネルで守屋さんの動画を拝見し、オプション取引に興味を持ちました。
こんなに価値のある情報が無料でいただけるなんて非常にありがたいです。
さて、先物とオプションの違いについて質問させてください。
オプションは損失を限定的にする取引ができると思うのですが、そうすると初心者としては先物取引の上位互換のような存在だと思えてしまいました。
オプションのデメリット、あるいは、どういう時に先物を利用すべきか、などありましたら教えていただきたいです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
単体のオプションを先物の代用にすると、先物よりも多くのリスクを抱える
先物もオプションも未来に現物を取引するための予約
オプションも先物も、今、現物を取引するのではなく、未来に現物を取引するための予約である点は同じです。
先物は当事者(買い手、売り手)を両方とも拘束しますので、満期において、先物予約時点よりも現物価格が上がっていれば買い手は上がる前の先物予約時点の安い価格で買えますし、売り手は満期の現在値よりも安い約束の価格で売らなければなりません。
逆に先物予約時点よりも現物価格が下がっていた場合は、買い手は満期現在値よりも高い予約時点の約束の価格で買わなければならず、売り手は下がる前の高い価格で売ることができる、ということになります。
約束、契約ですから、有利なときだけでなく不利なときも拘束されるわけです。
オプションは選択権が付与されている予約形態
一方、オプションはどうかといえば、先物と異なり、満期において当事者の一方に予約を完結させるか、反故にするかの選択権(オプション)が付与されている予約形態です。
現物の「買い手」に予約を完結させるか反故にするかの選択権(オプション)が付与される契約をコールといい、「売り手」に予約を完結させるか反故にするかの選択権(オプション)が付与される契約をプットといいます。
コールオプションについて
例えば、満期の価格が予約時に設定した売買価格よりも高くなっていた場合、コールの契約が結ばれていたならば、コールを持つ株の買い手は予約を完結させて(権利行使)、満期時点よりも低い予約時点の約束の価格で買えることになります。
この場合、コールの義務者は予約時点で決めた約束の価格で売らなければなりません。
一方で、満期の価格が予約時に設定した売買価格よりも低いならば、市場価格の方が安いわけですから、買い手はこの契約に縛られたくないはずです。
先物では買い手も拘束され、高い価格で買わなければなりませんでしたが、コール契約であれば、コールをもつ現物の買い手は契約を反故にできます(権利行使しない)ので、契約はなかったことにでき、現物を買う必要はありません。
プットオプションについて
プットは現物の売り手に予約を完結させるか、反故にするかの選択権(オプション)が付与されていますので、満期において、予約時点で設定した売買価格よりも価格が下がっていた場合には、予約を完結(権利行使)して予約時点に設定した価格(現在価格よりも高い価格)で売却できることになります。
相手方は市場価格よりも高い価格で買わなければなりません。
一方で、満期の市場価格が、予約のときに設定した売買価格よりも高ければ、売り手は市場で売った方が高く売れるわけですから、この予約を反故にできるのです(権利を行使しない)。
このように、先物は当事者双方に権利義務がありますが、オプションでは片方に権利、もう片方は義務という形になるため、このアンバランスをお金で解決することにしました。
権利者は相手方にお金を払うことで選択権を付与されるのです。義務者はお金を受け取ることができます。
いくらが妥当な価格かは市場価格の動く量の予想
問題はこの受け渡される金額はいくらが妥当かということです。
あまりにこの金額が高ければ買い手はもったいないと思うでしょうし、売り手としては、義務を引き受けるわけですから、それなりの額をもらっておきたいと思うでしょう。
となると、その金額は、満期における市場価格が、予約時点で設定した売買価格とどれぐらい離れるだろうか、という未来予想により決定されることになります。
つまり市場価格の動く量の予想がオプション価格を決めることになります。
市場価格の動く分量を統計学的アプローチにより、割合で示したものを変動率(ボラティリティ)と呼びますが、このボラティリティの予想がオプション価格を決定するということなのです。
たしかに市場価格が上がると予想するときに、先物を買えば、権利金を払う必要はありませんが市場価格が下がった場合は下がった分の損失を負担しなければなりません。
しかし、コールオプションであれば、市場価格が下がっても、権利を行使しなければ(=支払った権利金を捨てれば)、支払った権利金を超える損失はありません(損失限定)。
もっとも、予想通り市場価格が上昇したとしても、オプションでは最初に権利金を支払っている分がコストになりますので、先物であれば、上昇分がダイレクトに利益になるのに対し、コールオプションの方は権利金を回収できるだけの上昇がなければ損失になります。
先物が30000円に上昇した際の先物とコール30000(C30000)の違い
今、日経225先物が29500円だとして、C30000が300円で売買されているならば、満期では、日経225先物が、30300円を超えないと利益になりません。
満期に現在値29500円から800円も上がってないとダメだということになります。先物ならば800円の利益のところ、C30000はプラスマイナス0なのです。500円程度の上昇であれば、先物は500円のプラスになるにもかかわらず、C30000は300円の損失になってしまうのです。
もちろんこれは満期における損益計算であり、期中であれば、相場の上昇によりC30000もプラスになることはありますが、先物ラージ1枚(mini10枚)よりも値動き自体は小さく(この先物に対するオプションの値動きの量を示す指標がデルタです)、さらには時の経過やインプライドボラティリティの低下により、足を引っ張られることになります。
つまり、コールオプションを先物買いの代用にするならば、相場の下落のリスク、時の経過のリスク、相場の変動率・インプライドボラティリティの低下というリスクなど先物取引よりも多くのリスクを抱えることになります。
このように、損失限定のメリットはありますが、先物の代替として単体のオプション買いを考えるならば、あれこれのリスクが多すぎて効率的ではないことになります。
オプションでしか取れないエッジはインプライドボラティリティによる変動リスク
およそ投資世界では消せるリスクは全て消して(緩和させて)、残るリスクをとり、そのリスクの取り方が正解だった場合にのみご褒美が貰えるのであり、取らなくてもいいリスクをとったからといってそこにご褒美はありません。
オプションの世界では唯一、インプライドボラティリティに関するリスク(ベガ)だけ、完全にヘッジできないので、このインプライドボラティリティの変動のリスクをとることで初めてご褒美がもらえることになります。
なお、先物はオプションのデルタ、ガンマ、セータのリスクを消す(緩和する)ために使います。
もちろん、オプションは道具としては大変便利なものですので、優位性があるわけではありませんが、便利な使い方はたくさんあります。
道具をたくさん持って、うまく使えるならば、それだけでも有利ということはできましょう。
ただ、オプション自体のエッジはインプライドボラティリティにあるとされているということです。
以上が質問に対する回答です。
まとめ
オプションは道具として便利なツールではありますが、先物との大きな違いはボラティリティだけが持っているエッジ(平均回帰性など)をリスクとして利益に変えることができる点です。
なぜなら、オプションの世界では唯一、インプライドボラティリティに関するリスク(ベガ)だけ、完全にヘッジできないからです。
このインプライドボラティリティの変動リスクをとることこそが、オプションにしかできないリスクの取り方です。
オプショントレードにて使用する先物は、オプションのギリシャ文字のベガを取り出すためほかのリスク(デルタ、ガンマ、セータ)を緩和するために使いますので、上位互換という位置づけではなくリスクの取り方が先物とオプションで異なるものであると言えます。